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ソニー・ロリンズ「ヴィレッジ・ヴァンガードの夜」

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人は孤独感や喪失感におそわれたとき、どういう音楽を聴くのだろうか。

村上春樹はこう書いている。(「ポートレイト・イン・ジャズ」和田誠 村上春樹著(新潮文庫)より)

 どんな人生にも「失われた一日」がある。「これを境に自分の中で何かが変わってしまうことだろう。そしてたぶん、もう二度ともとの自分には戻れないだろう」と心に感じる日のことだ。
 その日は、ずいぶん長く街を歩きまわっていた。一つの通りから次の通りへと、一つの時刻から次の時刻へと。よく知っているはずの街なのに、それは見覚えのない街みたいに見えた。
 (P.102)

彼はこのあと "FOUR & MORE" を聴く。
「それはまさに僕の求めていた音楽だった」

たしかに、このライブは感情移入を拒否するようなところがある。自分の感情に蓋をしたまま音楽に集中できるので、救われた気持ちになるのかもしれない。
しかし、私にいわせれば「ずいぶん長く街を歩きまわっていた」というのはよくない。そういった時に歩きまわる場所は、街ではなく、トランポリンの上にすべきである。
遊園地に行けば、大き目のトランポリンがあるはずだ。その上をやみくもに歩けばいい。
交互に出す足がカクンカクンする。それでも歩き続ける。やがて、口から声のような吐息のような「はふんはふん」という音が漏れてくる。こうなるとしめたものだ。はふんはふん。どんどん歩く。はふんはふん。横隔膜が振動しはじめ、徐々に笑顔が浮かんでくる。

だが、この日本という国はなんでこんなことになってしまったのか、大き目のトランポリンがなかなか見当たらない。
そこでソニー・ロリンズ「ヴィレッジヴァンガードの夜 VOL.1」の出番である。
聴くだけでトランポリン歩行の効果を与えてくれる。このロリンズのソロは横隔膜にくる。真剣に音を追っていると、はふんはふんしてくる。鼓膜で聴いているのか横隔膜で聴いているのかわからなくなってしまう。
これさえあれば、孤独な夜も恐くない(かもしれない)。

誠に僭越ではありますが、そして、ロリンズは他に数枚を聴いたのみで生意気ではございますが、インターネットの片隅でこう主張したいのです。「ロリンズは横隔膜で聴け!」と。

このアルバムの欠点は二つ。一つは、シンバルの音が割れていて聴き辛い箇所があること。もう一つは、一曲目が終わったあとのロリンズのMC。「サンキューサンキュー」のイントネーションが「CQ、CQ」に似ているため、アマチュア無線の電波が飛び込んできたのかと勘違いしてしまうことである。
だが、そんな欠点もまったく気にならないほど、素晴らしい演奏である。

はなはだ対処療法的ではあるが、落ち込んだときに横隔膜を刺激するアイテムとしてこのアルバムを推奨したい。
by beertoma | 2004-10-07 15:12 | 音楽(JAZZ)


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