「グランド・ミステリー」奥泉光

グランド・ミステリー
奥泉 光 / 角川書店

ハードカバー。2段組600ページ。読み終えるのに2週間以上かかりました。

<奥泉 光(おくいずみ ひかる)という作家について>
ご存じない方のために紹介してみます。
まずは「虚構まみれ」(青土社)というエッセイ集から引用します。

誰かが読みたいと思うものを書く。それをするのが作家である。もちろんその誰かとは作家本人でもよい。自分が読みたいと思うものを自分で書く。これはきわめて正当な態度といえるだろう。
私には書きたいことなどひとつもない。ただし読みたいことはたくさんある。だから書くのである。

(P.15『意思の来歴』)

謎に僕は牽かれる。謎を解きたいのではない。謎に導かれ迷宮を彷徨いたいのである。
(P.322『不意に耳に届く謎』)

「謎を解きたい」とは思わないが「謎に導かれ迷宮を彷徨いたい」とは思っている人が、「自分が読みたいと思うものを自分で書」いたら、どんな小説になるか?
なにやら不可思議なことが起こるんだけれども、その謎は解決されない。そんな小説になります。
(例えば、何年も前に死んだはずの人を見かけるが、それは幽霊や錯覚ではない)

彼の書く小説は純文学だと言われています。といっても、従来の意味での純文学ではありません。再び同書からの引用。

私は私である。私の周りに世界は確固としてある。こればかりはどうにも疑いようがない。しかし本当にそうなのか? 世界は感じられたそれとはまた違う姿をとりうるのではあるまいか? 日常にまどろむ意識にそのように囁きかけ、想像力を運動させるのが純文学である。
(P.306『「私」を語る方法』)

「グランド・ミステリー」は、このような作家が書いたミステリーです。

<ストーリー紹介>
昭和九年六月十七日深夜。佐世保湾に停泊していた水雷艇「夕鶴」が謎の爆発事故を起こす。
昭和十六年十二月七日早朝。ハワイを目指す真珠湾攻撃機動部隊でも謎の事件が発生。航空母艦「蒼龍」では乗組員の失踪。潜水艦伊二四号では艦長室の金庫盗難。
無関係に思えたこれらの事件だったが、そこには驚愕の真相が!

<例えば文章はこんな感じです>
吃驚した範子が思わず並び歩く女の顔を見ると、雨傘の陰で水村女史は尖った顎を何度か上下させて見せ、とにかく油断は禁物よと呟いた。考えすぎだと範子は笑おうとして、しかし顔は笑う形にはならず、相手の警告が重苦しい切迫感をともなって腑に落ちるとともに、先刻見た灰色の外套が打ち消しがたく意識に座を占めるのを感じながら、また黙って濡れた舗道に眼を落とした。(P.201)

<感想>
ミステリーであるから、もちろん謎が主役なのだが、この小説には2種類の謎がある。
爆発事故、殺人事件といったミステリー的な謎と、(ネタバレになるので詳しくは書けないが)いわゆるSF的な謎である。
前者に関してはラストで見事に解決されているのだが、後者の説明は中途半端であったように思う。
中ほどで一度解説らしきものが与えられているのだが、これがSF的現象の最終的な説明なのか、それともまだ続きがあるのかは、読み終えてからでないと判断できない。もう少し解明してくれるよね?と期待しながら読んだので、肩透かしを食らった気分だった。

ここが決まっていたら、何度も読み返したくなる小説になっていただろうと思われるのに、残念である。
(また、読み返すとは思いますが)
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by beertoma | 2005-01-14 01:10 | 読書


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