ハンガリーと私

前回 「アヌシュ選手を見ていると、ハンガリー人の人の良さがうかがえる」と書きましたが、それはハンガリーに行ったときの印象が大きく影響しています。
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1988年の3月、およそ1ヶ月間にわたってヨーロッパを一人旅していた。当時はまだベルリンの壁が崩壊する前、東欧に入るにはビザと少しの勇気が必要であった。
ウィーンのハンガリー大使館でビザを取得した次の朝、ブダペスト行きの列車に乗り込んだ。

私は関西人。サラサラと関西人の血が流れている。最初のうちは初めての海外ということもあり緊張していたのだが、旅が進むにつれリラックスできるようになっていた。
しかし、東欧である。鉄のカーテンの向こう側である。秘密警察だっているだろう。粛清されるかもしんない。
少しビビッていた。

列車は空いており、コンパートメントには私一人であった。国境に到着。窓の外を見ると銃を持った兵士が立っている。パスポートのチェックが済むと兵士が入ってきた。座席下の空間に人が隠れていないかチェックしている。肩から下げたライフルを間近に見て緊張が極度に達する。関西人の血がドロドロになってしまった。ユーモアなんて何の役にも立たない。心からそう思った。

やがてブダペストに到着する。ガイドブックで紹介されていたホテルに行こうと駅を出た。
「ヘイ、ミスター! チェンジ・マネー?」という声があちこちから飛んでくる。闇でドルを両替しようとする人たちである。両替は済ませていたので無視して歩いた。
自宅に旅行者を泊め、外貨を獲得しようとする人たちからも 「いい部屋あるよ」 と誘われる。いわゆる闇宿(やみやど)である。が、これまた無視させていただく。当局にバレたらと思うと恐ろしかった。

ところが一人しつこく話し掛けてくる老婆がいた。腕をつかんで離さない。カタコトの英語で迫ってくる。
私の英語力は簡単な会話なら聞き取れる程度である。老婆の英語は耳に優しかった。幸か不幸か完全に聞き取れた。
部屋の写真を見せながら

「ベリー・ベリー・グッドルーム! マイ・シスターズ・ハウス! イエスタディ、カナディアン・ボーイ・ステイ! ヒー・セイ・ベリー・ベリー・グッド!」

と繰り返す。16年経った今も耳に残っているダミ声。日本人よりも下手な、こてこての発音。

「ルーーック!! ビューティフル・ルーム! カモォーーン!」

腕を引っ張られ老婆英語を聞いているうちに、関西人の血が再びサラサラと流れ出した。

このバァさん、おもろい。 もうええわ、この部屋で。


彼女の教えてくれた住所に到着。一軒家ではなくマンションのような建物であった。不安感がぶり返してくる。何故か、ハンス・シュミット、バロン・フォン・ラシクといった悪役レスラーの顔まで浮かんでくる始末。
割高やけど正規のホテルの方が安心かな。ひどい目にあうかもしれんな。
しばらく迷っていたが、思い切って階段を上っていった。

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中では10才くらいの少年とその母親が待っていました。3LDKのマンションといった感じで、きれいな家でした。ここらあたりは記憶がぼやけているのですが、荷物を置かせてもらって、夜まであちこちうろついていたはずです。お母さんは英語が全く駄目らしく、やりとりは少年としていました。
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夜になって部屋に戻る。少年がやってきて明日は何時にチェックアウトするかと訊いてきた。10時にしたいと言うと、
「トゥモロブ・アイ・ゴー・シュール!」
トゥモロブが tomorrow であることは推測がついたが、シュールがわからない。
英和辞書を渡すと school を誇らしげに指差されてしまった。なるほど。

こんな悪戦苦闘のやりとりをした結果、彼が私にいったのは次のようなことであった。

明日の朝、お母さんは8時に仕事に出かけます。僕も学校へ行きます。10時までいててくれていいです。部屋代は食卓の上に置いておいてね。鍵はこれです。出るときにかけたら、あとはポストに入れておいてね。

わしは親戚か?
単なる通りすがりの旅行者をそこまで信じるってすごい。なんて人たちだ。
もちろん、言われたとおりに宿泊代を置いて鍵をポストに入れ、次の目的地へと向かった。

他でも親切にしてもらったこともあって、ハンガリー人は人がいいというイメージなのである。

ハンガリアンな部屋
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by beertoma | 2004-09-04 05:00 | その他


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