カテゴリ:読書( 43 )

「坊ちゃん」夏目漱石

坊っちゃん
夏目 漱石 / 新潮社

<感想>
高校時代に読んで以来ニ度目。
映画やドラマや脳軟化で記憶がすっかり変形されていたことに驚いた。
マドンナは坊ちゃんと会話しない。私の記憶によると、キャサリン・ゼタ=ジョーンズがえなりかずきを手玉に取るような感じで、マドンナが坊ちゃんをからかっていたはずなのに。それに、坊ちゃんと生徒たちは打ち解けないままで終わってしまう。ラストで生徒たちが「先生、東京さ帰らねえでくれろ」と涙ながらに見送るシーンがあると思っていたのに。

この作品の醒めたユーモア感覚は「そして夜は甦る」(原尞)に通じるものがあることを発見。
(以下の引用の箇所がそうだというわけではありません)


御婆さんは時々部屋へ来ていろいろな話をする。どうして奥さんをお連れなさって、一所に御出でなんだのぞなもしなどと質問をする。奥さんがある様に見えますかね。可哀想にこれでもまだ二十四ですぜと云ったらそれでも、あなた二十四で奥さんが御有りなさるのは当り前ぞなもしと冒頭を置いて、どこの誰さんは二十で御嫁を御貰いたの、どこの何とかさんは二十二で子供を二人御持ちたのと、何でも例を半ダースばかり挙げて反駁を試みたには恐れ入った。(新潮文庫 P.69)
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by beertoma | 2005-03-01 18:20 | 読書

「航路」コニー・ウィリス

航路 (上)
コニー・ウィリス 大森 望 / ソニー・マガジンズ

航路 (下)
コニー・ウィリス 大森 望 / ソニー・マガジンズ

<ストーリー紹介>
ジョアンナはデンバーの大病院で働いている。といっても、ドクターやナースではなく、ヤクザイシーやレントゲンギシーでもない。臨死体験を研究している認知心理学者である。
「もうちょっとでデスするところだったざますのよゴホゴホ」という婆さんや「もうちょっとでデスするところじゃったわいゲホゲホ」という爺さんが現れると、はせ参じてインタビューをする毎日である。
ところが、とかくこの世はままならぬもの。彼女の研究を邪魔する男がいる。マンドレイクというノンフィクション作家である。彼もまた臨死体験者へのインタビューを仕事にしているのだが、この男の場合、インタビューとは名ばかりで、その実体はほとんど洗脳なのである。「あの世は存在する」と頑なに信じているから、誘導尋問につぐ誘導尋問で患者の記憶を滅茶苦茶にしてしまう。

そんなある日、この病院に神経内科医のリチャードが転任してくる。
投与すれば誰でも臨死体験ができる薬、ジテタミンをひっさげての颯爽とした登場である。

そんなジョアンナとリチャードとその仲間たちと敵たちの物語。


<感想>
次々とページをめくり、あっという間に読み終わってしまいました。そういう意味ではとてもよく出来た小説です。

ただ、帯の

宮部みゆきさん絶賛!「この<船>は、すべての謎が解き明かされる感動のラストへと、必ず貴方をお連れします」

というコピーや、訳者あとがきの

掛け値なしに、これこそ”十年に一度の傑作”と呼ぶにふさわしい小説だと思う。

という表現は、いくらなんでも大げさすぎるのでは。
面白くは読めましたが、あまり感動はできませんでした。

「すんごい小説ですよー。お買い得ですよー」とラッパを吹かなければ集客できないのはわかりますが、そこのところは表現を工夫して頂かないと、期待感が裏切られた感になってしまいます。

この小説の難点は、登場人物のキャラクターが平坦すぎるところです。(病院での右往左往がほとんどなので、”仕事をしているときの人格”しか見えてこない)
ただ、これは、著者名や出版社名である程度判断すべきだったのかもしれません。(あるいは、読むスピードが速すぎたのかも)


マンドレイクにもジテタミンを投与してほしかった。
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by beertoma | 2005-02-23 05:29 | 読書

「父」芥川龍之介

先日、感想を書いたD・サークの 「悲しみは空の彼方に」 についての続報(?)です。

この作品の登場人物の一人は、10代の頃に親のことを馬鹿にした生き方をしているのですが、やがてそのことを深く後悔するようになります。
そういえば芥川龍之介の小説にこういった感情を取り扱ったのがあったはずだ、と思い出したのが3日前。
本日ようやく探し当てることができました。「父」という短編です。
青空文庫 Aozora Bunko にもあります。(「父」

よく読んでみると、「悲しみは空の彼方に」ほどあからさまに描いているわけではなく、少し違う種類の感情かもしれませんが、いちおう、紹介させていただきます。
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by beertoma | 2005-02-10 06:33 | 読書

「哲学」 島田紳助&松本人志

哲学
島田 紳助 松本 人志 / 幻冬舎

(たしか紳助がTVで、「この本はインタビューをもとに作られた」と言っていた記憶がありますので、そのようにして作られたという前提で書いています。)

「笑いの哲学を語る」「人生哲学を語る」の二部構成。
「笑いの哲学を語る」の部分では、”笑いについての考え方”のほか、お互いのこと(笑いの才能)をどう思っているのか、デビューしてからのエピソード、についても語られている。

おそらく編集者は二人のファンである。彼らの才能を高く評価しているのだろう。
それはいいのだが、(ファン意識が過ぎるあまり、)彼らの発言に対する推敲が甘くなっている気がした。言ったことをそのまま活字にしすぎである。

松本人志

そうではなくて、あの人の前で僕が緊張するのは、僕がかつてあの人に憧れていたとか、過去に尊敬していたとかいうのではなく、その感情が今も僕の中で現在進行形で継続しているからだ。
これは、僕の本心からいっている。
(P.8)

紳助さんがいなかったら、僕はきっとこの世界に入っていなかった。
あらためてこんなこというのは照れくさい。
が、これが本当なんだから仕方がない。
(P.16)

島田紳助

恐るべき奴だと思う。
ほんとうにすごい。
『松本紳助』の番組の中で、あいつと話をしながら、僕は何度心の中で思うことか。

(中略)
僕は本番中に、松本に感動しているのだ。
いっておくが、僕があいつのことをよいしょしても、なんの得にもならない。だから、これはほんとうに僕の本心から、そういっているのだ。
(P.22)

もし、この通りに発言していたとしても、褒めあいの言葉は抑えるべきである。今の我々に対してはいい。彼らの凄さをわかっているから。だが、50年後の人がこの本を読んだなら、「こいつらイタイな」としか思わないのではないだろうか。(そこまで想定していなのでしょうが)
あと、自分の発言を強化しようとする「本心です」「本当です」も不必要だと思う。

彼らの「笑いの哲学」をもっと深く知りたいと思っていただけに、やや残念な内容。
二人はプレーヤーでありレッスン・プロではないので、インタビュアーが話を引き出さなければならない。この本を叩き台にして再インタビューしていただきたい。

(いわゆるタレント本ですので、あんまり真面目に感想を書くのもアレかなとも思ったんですが、なんか、勿体ない気がいたしましたもので)
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by beertoma | 2005-01-28 01:10 | 読書

「グランド・ミステリー」奥泉光

グランド・ミステリー
奥泉 光 / 角川書店

ハードカバー。2段組600ページ。読み終えるのに2週間以上かかりました。

<奥泉 光(おくいずみ ひかる)という作家について>
ご存じない方のために紹介してみます。
まずは「虚構まみれ」(青土社)というエッセイ集から引用します。

誰かが読みたいと思うものを書く。それをするのが作家である。もちろんその誰かとは作家本人でもよい。自分が読みたいと思うものを自分で書く。これはきわめて正当な態度といえるだろう。
私には書きたいことなどひとつもない。ただし読みたいことはたくさんある。だから書くのである。

(P.15『意思の来歴』)

謎に僕は牽かれる。謎を解きたいのではない。謎に導かれ迷宮を彷徨いたいのである。
(P.322『不意に耳に届く謎』)

「謎を解きたい」とは思わないが「謎に導かれ迷宮を彷徨いたい」とは思っている人が、「自分が読みたいと思うものを自分で書」いたら、どんな小説になるか?
なにやら不可思議なことが起こるんだけれども、その謎は解決されない。そんな小説になります。
(例えば、何年も前に死んだはずの人を見かけるが、それは幽霊や錯覚ではない)

彼の書く小説は純文学だと言われています。といっても、従来の意味での純文学ではありません。再び同書からの引用。

私は私である。私の周りに世界は確固としてある。こればかりはどうにも疑いようがない。しかし本当にそうなのか? 世界は感じられたそれとはまた違う姿をとりうるのではあるまいか? 日常にまどろむ意識にそのように囁きかけ、想像力を運動させるのが純文学である。
(P.306『「私」を語る方法』)

「グランド・ミステリー」は、このような作家が書いたミステリーです。

<ストーリー紹介>
昭和九年六月十七日深夜。佐世保湾に停泊していた水雷艇「夕鶴」が謎の爆発事故を起こす。
昭和十六年十二月七日早朝。ハワイを目指す真珠湾攻撃機動部隊でも謎の事件が発生。航空母艦「蒼龍」では乗組員の失踪。潜水艦伊二四号では艦長室の金庫盗難。
無関係に思えたこれらの事件だったが、そこには驚愕の真相が!

<例えば文章はこんな感じです>
吃驚した範子が思わず並び歩く女の顔を見ると、雨傘の陰で水村女史は尖った顎を何度か上下させて見せ、とにかく油断は禁物よと呟いた。考えすぎだと範子は笑おうとして、しかし顔は笑う形にはならず、相手の警告が重苦しい切迫感をともなって腑に落ちるとともに、先刻見た灰色の外套が打ち消しがたく意識に座を占めるのを感じながら、また黙って濡れた舗道に眼を落とした。(P.201)

<感想>
ミステリーであるから、もちろん謎が主役なのだが、この小説には2種類の謎がある。
爆発事故、殺人事件といったミステリー的な謎と、(ネタバレになるので詳しくは書けないが)いわゆるSF的な謎である。
前者に関してはラストで見事に解決されているのだが、後者の説明は中途半端であったように思う。
中ほどで一度解説らしきものが与えられているのだが、これがSF的現象の最終的な説明なのか、それともまだ続きがあるのかは、読み終えてからでないと判断できない。もう少し解明してくれるよね?と期待しながら読んだので、肩透かしを食らった気分だった。

ここが決まっていたら、何度も読み返したくなる小説になっていただろうと思われるのに、残念である。
(また、読み返すとは思いますが)
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by beertoma | 2005-01-14 01:10 | 読書

「長く冷たい秋」サム・リーヴズ

a0034898_420697.jpg長く冷たい秋
サム リーヴズ Sam Reaves 小林 宏明 / 早川書房

タクシー・ドライバーが主人公のハードボイルド・ミステリー。

大学時代の友人が自殺した。クーパー(主人公)にとって大切な存在だった女性である。
ところが、彼女の息子は、自殺ではないと言い張る。
クーパーはその少年とともに調査を始める。

ハードボイルドといっても、一人称で語られているわけではないので、そういう文体に抵抗のある人でも読みやすい。
主人公はタフガイではあるが、いつもクールというわけではない。見知らぬ敵から狙われ精神的に参ってしまい、感情的になる場面もある。メル・ギブソンが演じれば似合いそうなキャラクター。

全体的な印象としては、よく出来たミステリーではある。
ストーリーがしっかりとしていて、登場人物もそれぞれ魅力的に描かれている。次々とページをめくり、あっという間に読み終わってしまった。「うまいなー」という読後感。
とくに、アクション・シーンが上手い。畳み掛けるような描写で引き込まれてしまう。読む者に有無を言わせない力がある。思わず「あいたたた!」と言いそうになった。

ただ、その上手さがアダになっているような気がしなくもない。作者の個性がこの作品からはつかみ辛い。(つかまなくったっていいのかもしれないが)
シリーズものの第1作ということだから、これくらいでちょうどいいのかもしれない。
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by beertoma | 2004-12-11 23:54 | 読書

桐野夏生「天使に見捨てられた夜」

天使に見捨てられた夜
桐野 夏生 / 講談社
ISBN : 4062635232

「顔に降りかかる雨」に続いて、女性探偵・村野ミロが主人公のハードボイルド小説。
失踪したAV女優を探してくれという依頼を受け、村野ミロが調査に乗り出す。女優の過去を調べていくうちに、そこには驚愕の新事実が!!
依頼を受けるのが12月の第1火曜日、そして解決するのが12月28日。今の季節、読むのにちょうどいいミステリーではないでしょうか。

作品全体を通しての主人公の感情は、決して明るいものではありません。心に大きな傷を抱えているからです。
ですから、読了後に「気分スッキリ、カタルシス!」というわけにはいきません。むしろ後味の悪さのようなものが残ります。
が、そこがまたこの作品の魅力だといえましょう。

私は田園調布から東横線に乗り、山手線で新宿に戻ってきた。天皇誕生日の休日で、明日はクリスマスイブ。渋谷も新宿も街は一気に盛り上がっていた。暮れた街で、カップルや家族連れが晩餐に繰り出そうとしている。人が一人死に、彼女の生の歴史が突然断ち切られたというのに、世の中は全く変わらない。この当たり前の出来事に、いつも私は打ちのめされるのだった。だが、その変わらない世の中が私を元気にさせ、いつもの自分に戻していくのも知っている。探偵というのはこんなことばかり学ぶ職業なのだ。(P.314)

主人公の隣に住むのは”トモさん”と呼ばれる男。彼は同性愛者です。
ミロとトモさんとの心の交流もまた、この作品の魅力となっています。
二人の会話からの引用。

「あたしにもわからないわ」
「女は都合が悪いとすぐにわからない、と言うんだ。意地が悪いようだけど、はっきり言うよ。俺はそういう女たちから自由になるために、神様が同性愛にしてくれたんじゃないかと思うことがある」
「女が嫌いなのね」
「きみは好きだよ」
とトモさんは言ってくれた。しかし、トモさんとても、私を見捨てる夜はある。トモさんが同性愛者であって、矢代とは違う自由な考えを持つ男だとしても、女を見捨てる夜はある。この世には女だけにしかわからないことがあるのだ、と私は思った。
(P.317)

女性の気持ちはわからない。とまでは言わないけれど、わかりにくい。
と、つねづね思っている私には、このシーンが面白く思えました。
でも、こういう箇所を面白がるところが、女性の気持ちがわかっていない何よりの証拠だと言われそうな気もしてビビッてます。
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by beertoma | 2004-12-08 00:30 | 読書

桐野夏生「OUT」

OUT 上 講談社文庫 き 32-3
桐野 夏生 / 講談社
OUT 下 講談社文庫 き 32-4
桐野 夏生 / 講談社

遅ればせながら「OUT」を読みました。
感想は「面白かったけど。うーん、ちょっとなあ」というものでした。

他の桐野夏生作品では、村野ミロが主人公の私立探偵もの(「顔に降りかかる雨」「天使に見捨てられた夜」)が好きなので、それらと比較しての感想になりますが、「OUT」は作者の個性が出すぎているような気がしました。「制約のある中で垣間見える、ほのかなる個性」を好む者としましては、ここでの個性は濃すぎるのでは?と思います。

ミステリーの大半は、ストーリー(プロット)重視で登場人物の人間性を描くことは二の次です。(まあ、当たり前っちゃあ当たり前ですが)
その中で桐野作品は、ストーリーもさることながら人間を描くこともかなり重視していて、そのバランスが魅力となっています。ところが、「OUT」ではストーリーよりも人物描写を重視したといいますか、そのバランスが崩れていたように感じました。

ひょっとして、先入観が間違っていたのかもしれません。
それまでの桐野作品から抱いていたイメージ、及び、帯の「日本ミステリー 初の快挙! MWA最優秀長編賞ノミネート」というコピー。これらからストレートなミステリーだと思っていました。
そういう先入観ではなく、女・村上龍の作品だと思って読めばまた感想も違っていたような気もします。
(ただし、これは女・村上龍が書いたものだと気づいたのは読み終わってからでしたが)

以上、期待や先入観をヘンに持ってしまうと、純粋なる読書体験がいかに歪められてしまうか、の報告でした。
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by beertoma | 2004-12-06 22:32 | 読書

「13階段」高野 和明

13階段
高野 和明 / 講談社

一人は刑務官、一人は傷害致死の前科を持つ男。
彼ら二人が死刑囚の冤罪を晴らそうと奔走する物語。

「第47回江戸川乱歩賞受賞作」「宮部みゆき氏 絶賛!!!」という帯の文句につられて買う。

設定と構成がしっかりしているので、「で、次どうなるの?」とページをめくっているうちに一気に読み終えてしまった。設計図をしっかりと作成し、その段階で練りに練って、あとは一気呵成に書き上げた。そんな印象を受ける。
仕事に疲れた頭でも読める、プロフェッショナルなミステリー。

ただ、セリフが平坦で、人物像がイマイチ浮かび上がってこないところが不満。
(まあ、この点を満足させてくれるミステリーは多くないのですが)
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by beertoma | 2004-11-30 01:18 | 読書

「ブランデーの香りを―ジャパンカップ物語&ヨーロッパ競馬紀行」

a0034898_41334.jpgブランデーの香りを―ジャパンカップ物語&ヨーロッパ競馬紀行
藤野 広一郎 / コスモヒルズ
ISBN : 4877038043

副題は「ジャパンカップ物語&ヨーロッパ競馬紀行」。
ジャパンカップについてのエッセイ集で、かつて「優駿」に掲載されていたもの。第1回から第8回までが取り上げられている。文章は硬すぎず柔らかすぎず、とても読みやすい。

ジャパンカップのエッセイといっても、主役はサラブレッドではなく人間。海外からの関係者(馬主、調教師、厩務員)たちとの交流が描かれている。読んでいるうちに、JCがいかに素晴らしいお祭りであるかということが伝わってくる。
読めば誰しもレースをナマで体験したくなること間違いなしの一冊。

発売当時この本を読んで、居ても立ってもいられなくなり、府中へ行った。
下はその時パドックで撮った写真。
この本があと一年早く出ていれば、2分22秒2の興奮を体験できたのに。

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by beertoma | 2004-11-23 01:07 | 読書