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味にまつわる記憶、または、世にも奇妙な物語

(たしか、昨年末くらいに連続ツイート用に考えた文章。長くなりすぎてしまい、帯にすら長し襷には何をか言わんや状態になってしまったので、こちらで投稿することにしました。いちおう断っておきますとこれは実話です)


高校から浪人時代にかけてよく近所の映画館に行った。いわゆる名画座とよばれる映画館で、料金は3本立てが400円。洋画から日活ロマンポルノまでいろんな作品を週代わりで上映していた。自転車で10分くらいのところにあったので足繁く通った。
血気盛んな頃であるからポルノ映画も欠かさず見た。友人たちとどの女優がいいかでよく論争したものである。そんな中、われわれの人気ナンバー1はAという女優であった。とても魅力的な女性であった。

やがて我々は揃って浪人し、そして受験シーズンがやってきた。それぞれ志望大学は異なっていたが、東京での滞在が重なる日があることがわかった。集まって飲みにいこうという話になり、それならせっかくだからAさんの実家へいくのはどうかと誰かが言い出した。
そう、彼女の実家は料理屋だった。しかしどんな料理屋なのかは不明である。高級な店だったら手も足も出ない。問い合わせてみなければわからない。しかしどうやって?
当時は個人情報などという概念のない時代。キネマ旬報社から俳優名鑑なるものが発行されていて、その中では自宅の住所や電話番号が惜しげもなく披露されていた。
当然、彼女の自宅の電話番号も載っていた。
思い切って電話してみた。

電話口に出た彼女は無邪気にこういった。
「まあ、わざわざ京都から?…そう、ありがとう!…うちの店は庶民的な値段だから大丈夫…言っておくから楽しんでね…え?サイン?いいよ。4人分ね」

我々は喜び勇んで彼女の実家の店を訪ねた。おいしい料理を心ゆくまで堪能し、ご両親とも楽しく会話した。それはそれはとても素晴らしい一夜を過ごすことができたのである。
あの料理の旨かったこと!
これが味にまつわる記憶である。サインはもちろん今でも大切に保管してある。


え? これのどこが「世にも奇妙な物語」なのかって?
たしかにこれでは味にはまつわっていても、世にも奇妙さがない。
すみません。嘘を書いてました。

じつは、電話口に出た彼女は別のことを言ったのである。


「え?…いつも見てくれているの? ありがとう。嬉しい!…まあ、わざわざ京都から?…うちの店は高くないけど…そうだ、もしよかったらみんなで一緒に映画でも見ましょうか?」

これがどれほど夢のような申し出であるか、おそらく、同年代の地方在住の人にしか理解してもらえないだろう。いつもスクリーンで見ているあこがれの女優と、実際に会える! そして一緒に映画を見ることができる!
この言葉を聞いた瞬間、大量の鼻血が出たのは言うまでもない。

当日の記憶はいまとなっては曖昧である。はっきりと憶えているのは、実際の彼女は途轍もなく綺麗であったこと。
一緒に見た映画はピーター・セラーズ主演の「チャンス」。名作である。
映画そのものについての感想は、見終わった直後も今もまったく変わらない。
「そんなもの覚えとりゃせんがな」
気もそぞろに映画を見るとストーリーなんてこれっぽっちも頭に入らない。

映画の後はジローというピザハウスでピザとビールをごちそうになった。彼女は気さくで優しく、好きな映画のこと、撮影についてのこぼれ話など聞かせてくれた。
ピザについての感想は、食べ終わった直後も今もまったく変わらない。
「そんなもん、味なんかせんわな」

スクリーンの向こう側の憧れの女優と一緒に食事をしても味なんかしない。
味というものは、憧れの女優と一緒でない時にのみ感じ取ることのできるものである。

ピザハウスを出たところでみんなで記念撮影をした。今でも写真が残っているが、その顔のニヤけていることといったら。100パーセントのニヤけ顔があるとすればこれこそそうである。
我々が当時、世界一幸せな浪人生4人組だったことは間違いない。



実際に会った後に映画を見ると、純粋に好きだという気持ちといやらしい気持ちがごちゃまぜになって下半身が複雑なことになりがち♪
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by beertoma | 2011-03-28 00:12 | 食べ物